連休の生活

3連休があるというのは、誰とも会話をしない日が3日続くということだ。
レンタルビデオ半額キャンペーン中のツタヤで、連休初日に「A.I.」、2日目に「メメント」を借りてきた。
「AI」は、人間になって愛されたいと願う少年のロボットのお話。前半は展開を急ぎすぎた印象があり、中ほどは反対にだれてしまった印象があった。でもラストシーンはやさしさに包まれていて、制作者の意図通りに涙が出た。
メメント」は、妻の死のショックで10分間しか記憶を保てない記憶障害になってしまった主人公が妻を殺した犯人を捜し出す話。観客を記憶障害に陥らせるような断片的で複雑な構成がとられており、時間軸通りにストーリーが進行しないため、話の筋道が全然理解できなかった。それが制作者の意図だとは思うのだけど、こういう混乱のさせ方は僕は好きじゃない。
設定がよくても必ずしも面白い映画になるわけではないこと、お金をかけたからといって必ずしもいいものになるとは限らないという当たり前のことが分かった。でも、いいお話ってなんだろう。人を感動させるってどういうことだろう。膨大な資金を投下し、誰かが時間をかけて一生懸命作ったものに対して、わずか数百円で好きなように批判をすることが許されるのか。制作者たちは、そういう批判的なコメントをどういう気持ちで受け止めているのだろう。
少し前に村上春樹のエッセイを読んでいたら、批評はなるべく読まない、耳に入れないようにしていると言っていた。批評に対する批評は意味がないからだとかなんとか。バーでお酒を飲んでいたら隣のカップルが突然「村上春樹ってさあ…」と始めたから慌てて店から出てきたとか、そういう話。
批評を自分から遠ざけるというのは、制作者にとって精神の安定を得るためのひとつの解決法ではあるけれど、完全に耳に入れないようにするというのは難しい。自分が作ったものに対して、どんな評価がなされているのかということについて、それがよいものにしろ悪いものにしろ知りたくてたまらないのが制作者の心理だからだ。いや、「制作者」と一括りにするのはよくないな。少なくとも、僕はそうだ。僕は自分が作ったFLASH作品についての評価を知りたいと思っている。素人の自分とプロの映画監督や作家と比較するのはどうかと思うけれど、そういう人たちの考えていることを知りたいなあと、最近よく思う。

昼、昔住んでいた街の甘味処へ。その街で暮らしていた時には知らなかったけれど、かなり有名なお店だったようだ。巷で絶品と噂されている氷イチゴを食べに。そのお店であんみつとおしるこは食べたことがあるけれど、夏限定の氷イチゴは食べたことがなかった。
久しぶりに歩くその街は、いくつかが昔と違う風景になっていた。ドーナツ屋はおしゃれなヘアサロンに変わり、昔ながらの古い小料理屋はよくわからない異国の料理屋に変わり、コンビニは整骨院になり、前は何だったか思い出せない(でも多分料理屋だった)場所に新しい写真屋ができていた。どう見ても売れない洋品店は閉店セール中だ。
感慨にふけりながらその甘味処に辿り着くと、あろうことか、そのお店には「月曜定休」の札がかかっていた。そうだ。ここはそういうお店だった。今日が祝日だからお店を開けておこうだなんてこれっぽっちも思わない。月曜が定休なら平日だろうが祝日だろうが休むのだ。融通はきかない。でもそういうのって、僕は嫌いじゃない。誰かを連れてくるのならちゃんと下調べをすると思うのだけど、ひとりで思いついてぶらっと出てきたからこういうこともある。また今度来よう。夏のうちに。
少し引き返して、昔よく行った定食屋で昼食。その店は、リニューアルしてちょっとだけ小綺麗になっていた。でもまた何年かすればもとと同じ感じになるのだろう。汚くなったから形はそのままにして綺麗なものに取り替えた、そんな感じの改装。ラーメンと半チャーハンの味は昔と変わらなかった。絶賛するほどうまくもないし、絶望するほどまずくもない。街の定食屋というのはそういうものだ。

電車に乗って隣町へ。目を付けていたウエストバッグをゲット。昨日来て、衝動買いしそうになって思いとどまったもの。一晩経ってもやっぱり欲しかったので今日はためらいなく購入。レジの店員さんにすぐ使いたいと伝えると、慣れた手つきでバッグの中の詰め物を出し、値札をとって「店内から出たら外して下さい」と言いながら、バッグの内側にお店のロゴ入りのテープを貼ってくれた。
片手に持っていた文庫本を早速バッグに入れて身に付けてみる。トイレの鏡で姿を確認。悪くない。休日にぶらっと出かけるのにちょうどいい小ささだ。ちょっと気分よく街を散歩。帰りの駅のホーム。コーラで喉を潤す。

僕の住む街で電車を降りた瞬間、夏の熱気と光に包まれてふっと昔の記憶がよぎる。2年前も同じように暑い夏だった。当時は海の近くに住んでいたせいか、今よりもっと蒸し暑かったような気がする。そして、あまり気持ちのいいとはいえない潮のにおいがした。去年の夏は、そう、もう今の街で生活してたんだ。
今年は梅雨明けが早かったせいで、夏がいつもより長い。もう十分夏の時期を堪能したという感覚なのだけど、実際にはまだ7月が終わるまででさえあと10日もある。今年の夏は本でも読んで過ごしますか。暇です。
本当はすごく乾いていて、誰かに触れたいと思っているのだけど、今の僕は自力で道を切り開く力を持っていないみたいだ。世界はいつまで経ってもモノクロのまま。