桃太郎公演を振り返る

「かっこよかったよ!」
終演後、ホールの外でお客様をお見送り。最初にこの一言を聞くごとに感じる幸せ。そう、僕はこの単純な一言を聞きたいがために舞台に立っているのです。
the CRAZY ANGEL COMPANY(以下CA)のブラスミュージカル「桃太郎」公演が終了しました。猿田彦というはまり役を頂いて、自分の想像を遙かに超える反響を頂きました。でも、はまり役と本当に分かったのは、公演の初日アンケートで人気投票が1位になったから。お客様の評価を頂くまでは、どんなにやりこんでいても真の確信が持てないものです。

猿田彦ができるまで

猿田彦は、普段の自分の性格とは正反対。今回の公演をご覧になった方から口々に「はまり役だった」「どちらが君の本当の性格か分からなくなった」といったコメントを頂きました。自分と全く違う性格の役にもかかわらずそれが本物に見えたのは、その役を生き抜くことができたからで、そのギャップは、役者として最高にうれしい評価です。

2011年2月、猿田彦役を演出から最初に打診されたとき、僕はもともと別の役を志望していたこともあって、「考えさせて下さい」と回答を保留し、その後もなかなか返事できずにいました。3.11の東日本大震災の前週に行われたキックオフ合宿にも参加できず、そもそもプレイヤーとしての活動継続すら悩んでおり、3月は悶々として結局一度も稽古に出なかった有様。
3月末にようやくプレイヤー継続を決め、猿田彦役を背負うことにしたものの、役作りは困難を極めました。自分が目指すべきキャラのイメージも作れなかったし、「桃太郎」は再演であることから、前作の印象が強すぎてなかなか自分の色を出せないままでした。とは言え稽古は進んでいく。そしてよくないことに、前作の印象のまま演じても、周りはそれを受け入れてくれているように見えていました。もしかしてこれでいいのか?なんて浅はかにも思っていた。
そんなある日、演出からの鋭い指摘。稽古を始めてから既に3カ月。もう6月に入っていたと思う。

「あなたは前作の猿田彦をなぞっている。それが見たいわけじゃない。」

そのものズバリを指摘されて、ぐうの音も出なかった。そして、舞台に乗る人間として恥ずべきことと思い知った。自分はそれまで何も作っておらず何も表現していなかったのだから。この一言を胸に刻み、猛烈に反省した。猿田彦が本当に作られ始めたのはその日が境。猿田彦に命を吹き込む作業が始まった。
猿はコミカルな役柄ではあるけれど、それがすべてではない。自分が猿をやるならば、そこには自分がやる理由があるはず。ならば自分の信じる「カッコイイ」を投影させようと。そして、コミカルなシーンもひたすらやりきる。中途半端なのが一番ダメだ。鏡を見ながらお尻をかく練習までした。
7月の合宿を経て、自分とキャラの心の動きが繋がってくることを感じられるようになる。キャラクタの自然な心持ちで舞台にいられるというのは心地よく、気分が楽になった。
舞台上にいる時間だけが猿田彦の人生ではない。物語上で語られない時間は、自分がその世界を見てくる必要がある。この世界観を持ち、作品を皆で共有することによって、舞台上のキャラが生きる。

猿田彦は人情味あふれていて、体がでかい割に涙もろく、本番中もあちこちでマジ泣きしていました。その世界を本気で生きていると何度でも泣ける。自分でも意外だったのは、決起で犬飼に怒りながら涙が流れたこと。

あと、これは公演中の日記にも書いたけれど改めて。
僕自身と猿田彦の性格はもちろん全然違うわけだけれど、公演が近付くにつれ、いろんな場面でお互いがお互いに影響を及ぼしあっている感じがしていた。干渉しあうというか。もちろん悪い意味ではなくいい意味で。すごく不思議な感覚。遠慮のなさや人見知りのなさ、大胆なところ、勇気、男気、人間味みたいなものを僕は猿田彦からもらっている。僕は自分の信じるかっこよさを猿田彦に投影させている。
いつの間にか僕は猿田彦が大好きになり、桃太郎の世界はもはや現実になっていたのです。

音楽について

「ブラスミュージカル」と呼ばれる新しいカテゴリに属する舞台。この「桃太郎」に欠かせないのが音楽。音楽監督である細川佳那枝が紡ぎ出す音楽は最高に熱く最高に切ない。この音楽家の作品に関われたのは本当に幸せ。
オープニングで流れる「桃太郎序曲」は一番のお気に入り。2007年の初演時、楽曲を初めて聴いたときに、予告編映像の製作を即決したほど。(今回は映像ディレクターとして予告編の映像作りに関わりました。)

公演前半戦3日間を終えて中三日。後半戦初日に会場入りしてみたら、なんと、前半にはなかった客入りの音楽・映像・照明が新たに追加されていた。お客様が会場に一歩足を踏み入れた瞬間、始まる冒険へのわくわくを壮大で緊張感ある音楽と演出が迎え入れる。感動して泣いた。

チームについて

「桃太郎」にはたくさんのチームがあります。桃太郎チーム、鬼チームを筆頭に、志方村チームや鳥海旗チームなど、いくつものチームが存在します。僕の演じる猿田彦は山賊の頭領なので、当然その子分達が所属する山賊チームというものがあります。このチームがまた素晴らしくて。
猿田彦の恋人役・姉御のエミイ、若手のリーダーぬまっち、リーダー同期のまりな&はるか、新入りのゆーき、ちょっとすかしたコト、元気で華やかなちぃ、低音でリズムを刻んでくれたくーまい、それぞれがいい味を出してとびきりのチームを構成していました。この山賊チームの雰囲気が他のチームにもいい影響を及ぼしていたことは間違いない。山賊チームは見せ場も多くて本当に楽しかった!チームのみんなに感謝☆
ちなみに、7歳の女の子を連れてきてくれたお客さんがいたのだけれど、猿と姉御とのラブシーンでその子は照れまくっていたとか。お子様には刺激が強すぎたか(笑)

もうひとつ、鬼の城に向かう仲間である桃太郎チーム。まっすぐでひたむきな桃太郎、熱血漢で空回りも多い犬飼、気丈な夕雅、航海で仲間を失った過去を持つ鳥海、それに大柄で大ざっぱな猿田彦
一人ずつ仲間に加わっていく各シーン、鬼の城に上陸する緊張感、仲間割れから決起に至る物語の肝となる場面、夕雅救出の瞬間、そしてエピローグでの別れ。すべてに思い入れがあり、こだわりがある。
桃太郎チームで僕が一番好きなシーンは、前半ラストとなる出航前夜。ついに鬼の城に向かう仲間が全員揃い、5人で朝日を迎えるところ。壮大なブラス隊と彩りのあるカラーガードが華を添え、もっとも希望に満ちている場面。
この仲間と旅に出て無事に帰還できたことを心からうれしく思う。最高のキャスティングでした。

殺陣について

猿田彦 vs 玄武将・祝珂(しゅうか)。「ここは俺が守る!」の場面での殺陣は今回、中国武術の先生につけて頂きました。猿の武器は長さ1.8メートルの棍棒、玄武の武器は二刀流の中国剣。
棒術も中国武術も初めて。猿は日本人だけれど、玄武は百済から来た兵士だから、中国剣の使い手。どんなふうになるのかは事前に想像もつかず、先生がいらしてからも、これまで知らなかった棒の捌き方や体の使い方で度肝を抜かれた。
限られたわずかな時間ではあったものの、本物を生で教わることができたのは大きい。要点を教わり、あとは稽古の動画を利用して自分たちで練習しつつ、場面に合わせて足したり引いたり。
先生がやっているかっこいい立ち回りを見て、自分が本当にできるのか不安になったが、できるかできないかという選択はない。「やる」の一心でひたすら練習した。
仕上がりが遅く、ある程度形になるまではかなり不安。また、形になった後も、本当に戦いとして見せられるまでには、もう一段階超えるべき壁があった。
本番直前まで試行錯誤が続いたが、組む相手との呼吸も稽古の中で徐々に合ってくるのが分かった。猿vs玄武は劇中では敵同士だけれど、殺陣としては当然息が合わないとね。よき戦友!
棒の使い方は、もっと基礎を積んで研究できたらよかったなー。動画を色々検索してみると、もっと軽い棒で素早く振り回しているものが多いみたい。これからも棒術を研究してみたい!

殺陣といえば、「野盗の襲撃」の場面で密かに覆面して出てました。覆面の鳥海と一緒に。桃太郎公演で一番緊張したのは、夜盗後の志方村の裏で早着替えしているときでした。次の曲までに着替え終わらないといけないから。

本番について

これまでの公演では、本番前は本当に緊張していたのだけれど、今回の公演では変な緊張が全くなかった。仲間とともに作り上げてきた桃太郎の世界。稽古をやりきってきたという自信もあるし、何が起きても自分は桃太郎の世界を生きればよいのだという安心感みたいなものがあった。
そして実際、全11回の公演で悔いの残る回はひとつもない。出し惜しみは一切なく、すべての回をやり切った。このことは自分でも誇りに思う。

改めて感謝

どんなに役者が揃っても、それだけでは決して公演は打てません。
公演を取り仕切るプロデューサー、制作統括、演出家、音楽、ダンス、カラーガード、殺陣などの演目に関わる技術スタッフ、音響、照明、メイク、ヘアメイク、会場、舞台監督、場内スタッフ、美術、広報、映像、WEBデザイン、パンフレット、そして観に来られるお客様。出演者より多くの人数が幕を上げるために舞台を支えています。関わって下さったすべての方に改めて感謝します。
特に、無知な役者たちにメイクを指導して下さったよっちゃん、無理をおして公演中毎日来てくれたヘアメイクのアツトに、最大限の感謝を捧げます。
本当にありがとうございました!

 the CRAZY ANGEL COMPANY
 「桃太郎」公演特設サイト