レーシック体験レポート3:手術

いざ手術室へ

手術室に入ると、8畳くらいの部屋になんと5人もの人がいた。なに?そんなに大袈裟なの?とちょっとひるむ。ここまで来て初めて、もう自分がどうにも後戻りできない場所に来たことを悟る。もちろん、手術は自分の意思ですることだし、視力回復のためにわくわくしながらこの日が来るのを待っていたことも事実。とはいえ、手術そのものが楽しみなわけではない。
たとえば、バンジージャンプを飛ぶ人は、飛ぶという行為そのもので得られるスリルや興奮を味わうことが目的だ。飛んだら視力がよくなるとか、怪我が治るといった何らかの効果を得るために飛ぶのではない。一方、レーシックを受ける人は手術によって得られる視力回復という状況を望んでいるだけであって、決して目にレーザーを当てるという行為自体を楽しみにしているわけではない。
手術は、現実として、単純に怖いのだ。

靴を脱いで手術台に横になるよう促される。なんとなく、歯医者の椅子みたいなものを想像していたので、真横になるのは意外だった。部屋の中央のベッドに横になるという行為は、自分が今から手術を受けるのだという自覚を鮮明にする。手術用の制服に身を包んだ人たちの中で、私服の自分になぜか違和感を覚える。

手術中の脳内

このクリニックは手術実績も多く、本当にたくさんの人が手術を受けている、信頼できるクリニックだ。10年以上前に受けた姉だって、何の後遺症も出ていない。自分は手術中の10分か20分、ただ身を任せておけばいいだけの話。極力冷静に、何でもないことのようにしていようと決めていた。
それでも。手術中に流れる時間はやっぱり怖い。手術後は回復室と呼ばれるやや薄暗い部屋で20分程休むのだけれど、そこに入ってもしばらくは心臓の動悸が収まらなかったから、それなりに緊張状態にいたと思う。ドキドキが頭にまで響くほでではなかったけども。

手術中の何が怖いって、それは意識のある状態で「全部見えている」ところだ。そして、どんなに怖くても目を逸らすことが許されず、現実と向き合い続けなければならないこと。年齢や性別、容姿、性格、普段の生活等一切の事情に関係なく、その時間は誰にも等しく流れる。
手術時間は両眼合わせて約10分。器具で上下のまぶたを固定される。目は手術終了までもう閉じられない。手術直前に局部麻酔薬の点眼があるが、痛みを感じることがないだけで、これによって目が見えなくなるわけではない。

手術

手術の流れは、レーザーを使ってフラップ(ふた)を作成する作業(約20秒)、視力矯正のためのレーザーを照射(10〜20秒)、その後フラップを元の位置に戻して終了。僕が受けたのは「品川プレミアムZレーシック」というもので、途中の移動はなし。コースによっては、フラップの作成とレーザー照射で場所を移動することがあるらしい。
部屋には5人くらいいたけれど、実際に稼働しているのは恐らく医師1名と助手1名。残りは機械操作の補佐か、研修医の見学ではないかと推測。

何ひとつ逆らうことはできない。自分にできることは、ただ目の前の緑の光を見続けることだけ。緑が時々赤に変わる。また緑が戻ってくる…と思ったら光が遠ざかり、視界に何も映らなくなる。目の表面を刷毛のようなものでなでられるのが見えて、思わず瞬き(できないが)。これが恐らくフラップを元に戻す作業。目の表面をなでられると終了。

片眼が終わってもまだ何も安心できない。右眼が終わったら次は左眼が残っているのだ。右眼で味わったのと同じ何ともいえない緊張の時間が過ぎる。
終了すると、「気分は大丈夫ですか?」と声をかけられる。大丈夫と答えると、回復室に移動するよう促される。ベッドからは誰かが起こしてくれるわけではない。思わず聞いた。「目は開けてもいいんですか?」

終了〜回復室へ

たった今目の手術をしたばかりなのに、すぐ歩いて移動するのか。目をちゃんと開くのが怖くて、思わず薄目で歩く。途中、通りがかりのスタッフの方が、お疲れさまでしたと声をかけてくれる。
回復室は、やや薄暗いところに一人がけのソファが並び、既に手術の終わった人たちが順番に座らされていた。ここで目を閉じたまま休むように言われる。静かなオルゴールの音楽が流れている。
ここで初めて自分が緊張状態にあることに気付く。回復室での20分は、今自分の身に起きたことを受け入れ、気を落ち着かせるための時間となる。
途中、恐る恐る目を開けてみると、うわ!もう見えてる!部屋に取り付けられている間仕切り用のカーテンレール。乱視の僕は今までならブレて見えるはずなのがくっきり。これがレーシックか。くっきり見えるってすごい。思わず一人でニヤニヤ。
その後、医師の診察を受け、大丈夫とのお墨付きをもらうと一気に安心感が広がる。保護用のサングラスと目薬、飲み薬などの処方薬一式を受け取るとこの日は終了。もう帰れます。