言葉の作用

気持ちは言葉にすることによって初めて形になる。漠然と心の中で思っていることは、言葉にしない限りは曖昧なまま。時にはその方が望ましいこともある。言葉としてこの世に出た瞬間、それまで曖昧だった気持ちは初めて形作られ、考えていたことが明確になる。時には言葉だけが自分の思いとは違うところで一人歩きするので必ずしもいいこととは言い切れないけれど、言葉にしてみるというのは、はっきりさせたいもやもやを形にするにはよい作業だと思う。言葉にして伝えなければ何も始まらないから。
でも、一旦口にした言葉はもう取り消せない。どんな気持ちでどんな種類の言葉でどんな理由があったとしても、なかったことにはできない。だから言葉には気を遣う。ただ、大切なのは言葉そのものというよりも、その言葉が一体どこから生まれてきたのかということではないかと思う。
 
悲鳴も叫びも一切伝わらない無音の世界。僕は一生懸命に何かを伝えようとしている。どんなに口を大きく開いて腹の底から呼びかけても声にならない。少し離れた場所にいる人がドアの向こうに消えていきそうになる。必死で呼び止める。声が出ない。もどかしい。渾身の力を込めて叫ぶ。
その瞬間、汗びっしょりで目が覚める。
伝えたかった言葉は、虚空へ消えた。