乙一「暗いところで待ち合わせ」

乙一「暗いところで待ち合わせ」(幻冬舎)読了。
ひとりで暮らす盲目の女性・ミチル宅へ、殺人犯として警察に追われる男アキヒロが逃げ込み、居間の隅に身を潜める。ミチルは人の気配を感じながら、自分の身を守るため気付かないふりをして生活を続けようと決意する。奇妙な共同生活がミチルとアキヒロそれぞれの視点から描かれる。
人を避けて生きてきた孤独な2人が互いの存在を認め、少しずつ心を通わせていく過程が丁寧に描写されている。この種の物語は、普通ハッピーエンドになり得ない。殺人者が幸福になることは一般に許容されないからだ。そういう前提があるから、2人が互いの存在を大事に思うようになっていくにつれ、予想される結末を思って切なくなる。後半、女性が見えない母親に向かって叫ぶ瞬間、また、それを見ていた男の視点から描写するシーンは、主人公の感情の高ぶりが伝わってきて涙が出た。
この本に唯一文句を言うとしたら、文庫本のカバーがホラーぽくて怖いところ。そのせいで損してるということはないのかなー。
 
「ZOO」を読みたいのだけれど、まだ本屋で出会わない。映画化されるそうなので、近いうちに平積みされるかな。映画観る前に読んでおきたい。
 
乙一の作品は、「失はれる物語」に収録されている「しあわせは小猫のかたち」も好き。一軒家を舞台とした小説の基本構成は、今回読んだ「暗いところで待ち合わせ」と重なるけれど、やさしいあたたかさに包まれる感覚が心に染みる。