閉店前の飯屋

閉店前の飯屋なんて入るもんじゃない。
残業を終えて電車に揺られること数十分。地元の駅近くの定食屋。
料理が運ばれてきてすぐに女性の店員がラストオーダーのお伺い。追加オーダーの意思がない旨を首のわずかな動作だけで伝え、食事を続ける。
数分後、今度は別の女性。
「こちらお済みでしたらお下げ…」
「まだ済んでない」
顔も上げずに唸るように遮る。
「大変失礼致しました」あーほんと失礼。
せっかくの食事を店員に邪魔される不快感。早く片付けて帰りたい気持ちは分からないではないけれど、この気遣いのなさが本当に気に入らない。店員は、パントリーに引っ込んだと思ったら間髪入れずにお茶を持ってきた。
「ありがとう」
相変わらず顔を上げずにそう言って湯飲みに手を伸ばす。気分は晴れない。その後も店員が閉店準備のために慌ただしくがちゃがちゃ動き回っているのが不快。早く帰れと言われている気がする。そして彼らは本当にそう思っている。この時間の店員におもてなしの心なんて求めてはいけない。こんな遅くに訪れた僕が悪かったんだ。
食事の後、本当はそのまま少しばかり読書をしたかったのだけど、急き立てられる店でゆっくり本など読んでいられるはずもない。お茶も全部飲み終わらないうちに席を立つ。彼らはひとりの客が不快に思って席を立ったことなど気付きもしていないだろう。彼らには彼らの終わらせるべき仕事があり、彼らの目から見ればオーダーストップの数分前に入ってくる客の方が悪者だ。

店を出て自転車置き場まで歩きながら考える。いつから僕はこんな尖った人間になってしまったのだろう。自分にも他人にも完璧を求めたがり、人のちょっとした過ちがやけに目に付く。今日は疲れてるから気が立ってるだけなのかな。
まずはゆっくり風呂にでも浸かってこよう。